箱根の水族館で多様性を感じた話④

あざらし

フィーディングタイムは盛況のうちにその幕を閉じた。そして「ゴマフアザラシ給餌体験」の受付が始まった。先着15名、隣の恋人が張り切って一番に受付しそうなのを必死に止めた(常々私は彼のことをゴールデンレトリバーみたいな人だな、と思っている)。

いいの、小さいお子さんにやってもらうから…!と思っていたが、案外受付はそんなに混み合わなかった。お、意外と…いけるか……?とおそらく同じような考えで様子を見ていた大人達が並び始めた。私もおずおずと並んだ。そして無事整理券を手に入れることができた。微妙な正月生まれでよかった。

ワクワクしながら順番を待った。餌やり体験の担当はひまわりちゃんなのだが、その間アッシュ君とぼたんちゃんは飼育員さんと遊んでいた。アッシュ君は館内に帰るお客さんたちにせっせと手を振っていた。後々アザラシ広場の展示で知ったのだが、「みんなに向かって前脚を振るのが好き」とのことであった。かわいすぎる。

私の番が来た。水槽の淵まで入れていただき、しゃがむともう目の前にひまわりちゃんがいた。ひまわりちゃんはお顔が沈みかけなのがデフォルトなのか、私の様子を撮っている恋人のスマートフォンに向けてほぼ水に浸かりながら手をちょいちょい振っていた。飼育員さんに「ひまわりちゃん、もうちょっとしっかり手振ってよ〜」と言われ、「え〜??」と言った感じでもう一度手を振ってくれた。かわいい。私も後ろで手を振ってみた(何故かはよく分からない)。

ひまわりちゃんは私が掴んだトングからも美味しそうにお魚を食べてくれた。こんな風に動物が信用してくれるのってなんでなんだろう。私は犬をみるとあまりに人間のことが好きで、お利口で、健気で「もっと自由に生きなよ?!猫見てみ?!」と思ってしまうところがある(実家の猫、言うことなんもきかないけど可愛い)。でも、犬達には犬達なりの幸せがあるのかもしれない。それはわからない。

ひまわりちゃんも何の疑いもなく私から魚を貰い、目の前の人間が自分に危害を加えるなんて微塵も思っていなそうだった。これまでの人間との関わりがそうさせているんだろう。動物特有のあのシンプルな愛情というのか、行動というのか、それはとても眩しい、と思った。幸せでいて欲しい。

ひまわりちゃんに残りのお魚も差し上げ、いっぱいお礼を伝えた。彼女はやはり水に沈みかけながら手を振ってくれた。

恋人は私とひまわりちゃんの様子をばっちり動画に収めたと誇らしげに報告してくれた。こちらはやはり、犬……(犬も勿論可愛い)

私の餌やり体験が終わっても、まだ受付は終了しておらず、恋人にもひまわりちゃんとの触れ合いをおすすめしたが、それは大丈夫、とのことであった。私も動画、とってあげるのに。

館内に戻る私たちに、アッシュ君が手を振ってくれていた。ぼたんちゃんは変わらず悠々とボール遊びをしていた。

我々はとても満たされ、その後旅館に向かった。箱根の湖畔にいる3頭のあざらしとゴールデンレトリバーみたいな成人男性のおかげで、私の30歳の誕生日はとても充実したものになった。

40歳になった時、30の時の私も良かったけど、今の私もいいな〜!と思えるよう、のびのびと30代を過ごしていく予定である。

こんな調子なので、これからも私は犬に喩えられることはないだろう。彼等のような忠誠心はなくとも、感謝の心は忘れずにいたいものである。

終わり

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