秋田の水族館で社会的に終わりかけた話②

あざらし

翌日の夜勤、必死に働いた。夜勤明けはいつもボロ雑巾のようになっていたが今回ばかりは目に光があった(勿論身体はボロ雑巾だったが)。なんてったってこれからあんずに会いに行くのだから。

退勤して、某ファーストフード店でジャンクな食べ物をテイクアウトし、それを黙々と食べ幸せな気持ちで気絶するように仮眠した。起きて弾丸秋田旅行の準備をしてワクワクしながらバスの時間を待った。

ちょうどよく自宅近くの駐車場がバス乗り場だったため、深夜に駐車場に向かった。数人しか人はおらず不安な気持ちになったが、ど平日にわざわざ夜行バスで神奈川から秋田に行く人々の方が少数派だと思い冷静になった。出発時間になってもやはりバスはガラガラだった。隣に人がいないのは有難い。当時常用していた睡眠導入剤を飲んで秋田までぐっすり眠ることにした。

目が覚めた。秋田だ!と思い車内をみるとまだ真っ暗だった。ふだん私が病棟中の患者さんに向けて「頼む、寝てくれ……!」と祈りを込めて消灯するように、バスの運転手さんから「寝ましょう」というメッセージを感じるくらい暗かった。詳細な時間は覚えていないが多分深夜2時くらいだったかと思う。それもそのはず、秋田までは約12時間の旅なのだ。ゾルピデム一錠じゃ全く太刀打ち出来ない。流石に夜勤明けのボロ雑巾状態なら眠れると油断していたが、夜行バスの旅はそんなに甘くなかった。大好きな水曜どうでしょうのサイコロの旅を思い出した。(分からない人は是非見てください、面白いので…)

暗闇で絶望しながらも、変なところで現実的な私はこのままの状態ではバス酔い+睡眠不足で秋田に無事到着してもあんずに会うどころの話ではなくなるな…と考え始めていた。

もう一錠飲もう……

それしかない。成人だったら1回10ミリまでいけたはず、正直いけなくてももうなんとしてでも寝るしかない。暗闇でゴソゴソと薬を探し出しもう一錠内服した。

目が覚めた時、外からうっすらと光が漏れて車内はぼんやりと明るかった。朝だ。とても嬉しかった。夜勤中、朝日が昇ってくるのが見えるとホッとするように、もう少しでこのバスの旅も終わると思うと元気が出た。明けない夜はない。

秋田駅に着いた。バスを降りると外は真っ白で、一面雪景色だった。「雪国」だ、と思った。同時に自分が非常に舐め腐った装備で3月上旬の秋田に乗り込んでしまったことを早々に後悔した。

雪国出身の人からしたら当たり前のことなのだろうと思うが、雪が降ったら大騒ぎ、数センチでも積もったら人々は転び、交通は麻痺するような地域で生まれ育った私は、東北地方の寒さへの解析度が抜群に低かった。上下ヒートテック、やっすいダウン、足元は普通のスニーカーで「3月なのにやり過ぎかなぁ」くらいに思っていた。全く足りなかった。

だけれども、見渡す限り服が買えそうな場所は無かった。もうこのまま行くしかない。あんずのいる男鹿水族館に行くにはここからさらに小一時間電車に乗り、そこからタクシーに乗る必要がある。ちょっと寒いとかもう言っていられない。電車に乗り男鹿駅に向かった。

約1時間後、男鹿駅に着いた。閑散とはしていたがとても綺麗な駅だった。遂にここまで来た、と高揚しながら外に出ると、秋田駅なんかよりもっともっと全てが真っ白で、風が轟々と吹き雪が舞っていた。

生まれて初めて見る吹雪だった。

続く

次の話↓

コメント

タイトルとURLをコピーしました