お酒が好きだ。
どのくらい好きかというとチャンスがあればすかさず飲むくらい好きだ。
私は、淡々と一晩飲み続けられる父親と、ザルではなく「枠」と呼ばれていた母親のもとに生まれた酒カスのサラブレッドなのだ(ちなみに弟も酒好きだ)。
家族で居酒屋に行くのもしょっちゅうだったし、そんな日の夕方に、喉が渇いたからと麦茶でも飲もうものなら「え?!お姉ちゃん今お茶飲むの?!ビール不味くなるよ?!」と言われる家庭ですくすく育った(ちなみに家族4人で本気で飲むと、お会計でちょっと酔いが覚める)。
働いたあとのビールも美味しい。夜勤明けの一杯も沁みる。そして全く働いてない日の、なんなら昼間から飲む酒も最高。
20歳になってからの10年間、様々なお酒を飲んだ。
中でも好きなのはビールとワインと日本酒。特に好きなのはワイン。
ちょっと素敵なワインバルとかに行って、ソムリエさんに美味しいワインを教えてもらって楽しむのが好きになった。そんなにしょっちゅうではなかったけれどご褒美に定期的にワインを飲んだ。
こういう品種のブドウで、こんな香りがして、こんな特徴があって……そんなお話を聞きながら、美味しいお料理とそれに合う美味しいワインを飲むとなんとも言えない良い気分になる。ひとりでも楽しいし、誰かといると自然と話も弾む。勿論、ワインも進む。
いつも良い気分でふわふわしながら帰宅する。ああ楽しかった、美味しかった。
翌朝、目が覚める。昨日のワインとても美味しかったな、と思う。また飲みたいな、なんてワインだっけ?と考える。
忘れている。すっきりと。
私の中には「楽しかった!!!」と「美味しかった!!!」しか残っていない(それがあれば良い気もするが…)。
悲しい。あんなに教えてもらったのに。ラベルの写真が撮ってあるのも1、2杯目くらいまでで、その後はもう何も情報がない(酔っ払いは写真が撮れない)。かろうじて言えば白かったか赤かったかくらいのぼんやりした記憶しかない。ソムリエさんにもなんだか申し訳ない。しょんぼりしてしまう。
あと、張り切って宅飲みするために買ったワインがなんだかいつもパッとしない。そういうワインなのか、私の舌が馬鹿なのか、はたまた好みではないのか、もう何も分からない。おつまみも色々用意して、一生懸命ワインを開けて(開けるの難しくないですか?)、さあ飲むぞ!と意気込んで一口!やっぱりしょんぼりしてしまうことも少なくない。
気づいたのだ、そもそも「自分がどんなワインを好きなのかすら分からない」と。看護師なりたての新人さんが「何が分からないのか分からない」的な感じで、私は美味しいワインが飲みたいのに、何を美味しいと思っているのかがまずよく分かっていないのだ。あんなに飲んでるのに!
昨年、久しぶりに看護の勉強をして資格を取得し、学ぶ楽しさを思い出した私は、ぼんやりと「来年はなんか楽しい軽めの趣味の勉強をしようかな…」と考えていた。勉強は楽しいけれど資格取得までのプレッシャーはそこそこあり、ちょっと疲れたな〜でもなんかやりたいな〜という感じだった。
そこで思いついたのが「ワインの勉強を酔ってない時にする」ということだった。大好きなワインのこと、もっと知りたい!軽い気持ちで来年の目標に決めた。
そして年末を迎えた。クリスマスは恋人と約束をしていたのだが、数日前に彼が熱発した。健康な成人が38度台後半になるなんてそうあることではない。症状は熱と咳。インフルかコロナだな、と思った。
翌日、彼は熱は下がってきていると必死にアピールしていたが、私の迅速でしつこい指示に従わざるを得ず受診した。やはりインフルエンザだった。勿論デートは無しになった。ビデオ通話をしながらお互いご飯を食べた。彼が悲しそうな顔でりんごを食べているのを見ながら、私はせっせとひとり買い集めたご馳走を食べた(最近はひとり用のケーキとか色々あるんですね、可愛くて張り切って買ってしまいました)。ちょっと可哀想なことをした。でも、チキンとケーキ、食べたかった。勿論、スパークリングワインも。

彼はデートがおじゃんになってしまったことを申し訳なさそうにしていた。一応医療従事者なので、体調不良は仕方ないのではと思っていたしそう伝えたが、もう何かしないと気が済まない様子だった。
彼はLINEでこう言った。
「この埋め合わせはなんでもします」
続く
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